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ヨーロッパで猛威を振るうウィルスとの闘い:ハンガリーの場合

26.05.20 Editorial
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ハンガリーのオルバーン・ヴィクトル首相とフィデス党が政権を握ってから10年間、欧州委員会は、医療や年金、失業給付の削減、公共サービスの民営化の促進、団体交渉権の制限などを目的に、何百回も加盟国に直接介入してきた。COVID-19緊急事態に隠れて3月30日に施行されたハンガリー首相に無期限の政令による統治権限を与え、既存の法律の停止、メディアの批評家の最長5年間の投獄を認める法律に直面しても、欧州委員会委員長は、首相や問題のある政府の名前を挙げることさえできない。

 

民主主義への攻撃がエスカレートしているのは、最も注意が散漫している瞬間を狙ったものである。緊急権限は表向きはウィルス危機に対応するために採用されたが、オルバーンはパンデミックに付け込んでCOVID-19とは無関係な一連の政令を制定した。政府は、反対派が支配する地方自治体の税収を削減する措置を採用し、労働法や労働協約に定められた雇用保護を無期限で無効にする規制を導入した。政権の現在の法的優先事項は、トランスジェンダーの法的承認の撤回と、オルバーンとその取り巻きを潤した政府の建設プロジェクトに関する情報を、10年間機密扱いにする法律である。

 

権威主義的な政策を実行するためにパンデミックを利用している国家元首はオルバーンだけではない。米国のトランプ氏、中国の政党国家、ブラジルのボルソナロ氏、トルコのエルドアン氏、インドのモディ首相などが危機を巧みに利用しており、彼らの国はハンガリーとは比較にならないほど世界的な影響力を持っている。しかし、EUは世界第2位の経済大国であり、民主主義や人権、そして、「連帯」への憲法上の責任を主張している。

 

オルバーンは、計算された挑発の連続の中で、組織的に民族主義的権威主義体制を構築してきた。緊急事態宣言による支配への道のりで取られた措置は、フォン・デル・ライエン欧州委員会委員長が個別に唱えた「価値観」に単に違反しているだけではない。それらはすべてEUの法律や条約、国際人権法への明白な違反であった。

 

手短に挙げると次のような違反がある。ロマの貧困層に対する暴力や差別を助長する政策、独立したメディアの事実上の排除、司法制度の与党による統制、亡命申請者を有罪にし、彼らに代わって擁護する法律、国境地帯に強制的に監禁された移民への食料の拒否、海外からの財政支援を受けているNGOに「海外エージェント」としての登録を義務付ける法律、年間400時間の残業を可能にし支払いを最大3年間遅らせる法律、国民投票に支持され、ユダヤ人が資金提供した、移民を通じたヨーロッパの「脱キリスト教化」の筋書きを主張する陰謀論の積極的な政府による宣伝、そして無期限の政党支配を可能にするための憲法と選挙法の徹底的な書き換え。権利に対する新たな攻撃のたびに、EUは後退している。欧州議会で最大のグループである「中道右派」の欧州人民党(フォン・デル・ライエンのドイツCDUを含む)は、フィデスを追放さえできない。

 

民主主義に対するオルバーンのエスカレートする攻撃への先制降伏は、2015年以来メディアや法廷で支配力を固めてきた「ポーランドの法と正義の党」を強化した。封鎖に隠れて、政府は今、健全な時代に大規模な街頭抗議により敗北した女性のリプロダクティブ・ライツへの攻撃を追及している。両国の権威主義政府は相互に強化し、盾となっている。一方に対する行動は、二つの政府に対して同時に行動しなければ、既存の非効率的な手続きの下では有効ではない。

 

ルカ・ビセンティーニETUC書記長はEUの管轄当局への4月1日の書簡で、ハンガリーに対するEUの資金提供の精査を強化することを含め、緊急事態法に異議を唱えるための早急な行動を求めた。このイニシアチブは支援に値する。これは、組合がウイルスの緊急事態と経済崩壊に圧倒されているにもかかわらず、特に世界がパンデミックから回復しようとしている間に強まった権威主義的傾向と闘う必要があるという観点から、緊急を要するものである。

 

EU司法裁判所におけるオルバーン政権への法的異議申し立ては、今のところ何の影響もない。加盟国の権利を停止する可能性のある第7条の手続きは、幅広い支持が必要であるが今のところ足りておらず、民主主義へのダメージは、たった一つの法律の破棄では修復できない。破壊はより根の深いところまで及んでいる。

 

2010年以降、ユーロ圏の金融危機は、緊縮財政を課し、強制するための新たなメカニズムや制度を多数もたらした。私たちは、権威主義的なウィルスの蔓延を効果的に食い止めるための新しいメカニズムを要求できないのだろうか。組合は、急速に縮小するハンガリー国内での地位を守るために闘っている民主主義勢力を最大限に支援しながら、オルバーン政権を孤立させるための正確な正しい措置を提唱することができる。